T20 (Think20) Japan が取り組む10の議題
T20(Think20)Japan は2019年5月下旬の本会合に向け、10のタスクフォース(TF)がそれぞれの議題を議論し、本会合ではG20サミット議長に政策提言書を提出する予定です。
10の議題の要点と各タスクフォースの筆頭共同議長は、以下の通りです。
TF1(タスクフォース1): 持続可能な開発のための2030年アジェンダ
筆頭共同議長:大野泉・国際協力機構(JICA)研究所所長
G20は、2015年に持続可能な開発目標(SDGs)が採択されて以来、持続可能な開発のための2030アジェンダに関する「G20行動計画」や「G20開発作業部会(DWG)」など、さまざまな枠組みやフォーラムを使ってSDGsを実施する効果的手段を模索してきました。SDGsは「誰も置き去りにしない」社会の実現を目指しており、日本が長年にわたって推進してきた人間の安全保障の概念と共通の基盤に立脚しています。
TF1では、これまでのT20での議論の継続性や日本政府の優先課題を考慮しながら、SDGの推進にきわめて重要な以下の課題に取り組みます。
- ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)
- 開発における教育
- 開発のための持続可能な資金調達
- SDGs達成における民間セクターの役割
- 科学技術協力
- ジェンダー
過去のT20会議での議論の継続性を確保しながら、また分野横断的で新たな課題(民間セクターや科学技術協力など)にも取り組みます。
TF2(タスクフォース2): 安定と発展のための国際金融アーキテクチャー、暗号資産とフィンテック
筆頭共同議長:小川英治・一橋大学教授
暗号資産(仮想通貨)とフィンテックにも重点を置き、安定と発展のための国際金融アーキテクチャーを強化することを目的に、過去のT20の提案と成果をレビューします。それを踏まえ、TF2は政策行動のための新たな優先課題を特定し、提案していきます。
第一に、金融政策と金融危機管理が変化の時代を迎える中、グローバルな金融の不安定性について議論します。 10年前の世界的な金融危機から学んだ教訓と資本フローに関するグローバルな分析も含まれています。FRBの利上げが通貨や新興市場における金利の動向にもたらす効果についても議論します。
第二に、2017年4月に暗号資産に関する包括的規制を導入した日本の経験は、G20で規制を議論する出発点として役立ちます。
第三に、グローバルな金融セーフティネットを強化する提案をしようと考えています。
第四に、技術革新とフィンテックの進化について。これには、伝統的な金融機関、フィンテック企業、そして金融エコシステムの技術を担う大手企業が、消費者や未来社会とどのように調和し、共存できるかといった課題も含まれます。
筆頭共同議長:松下和夫・地球環境戦略研究機関(IGES)シニアフェロー/京都大学名誉教授
国際社会は、2015年にパリ協定と2030年SDGsアジェンダを採択しました。今日、優先事項は、これらの約束をどのように実行するかです。
日本政府は、パリ協定とSDGsに適合する持続可能な社会へのパラダイム転換を実現するカギとして、2018年の第5次環境基本計画で「地域循環・生態圏(地域CES)」の概念を提唱しました。地域CESは、自立的で分権的な社会を形成するため、地域資源の持続可能で最適な利用を強調しています。
地域CESの概念は、パリ協定とSDGsを実施するため、日本だけでなく、他のG20メンバー国にとっても非常に重要です。T20は政策提言を作成することにより、これらのアイデアを広め、議論を深める良い機会になるでしょう。
TF3は、地域CESの次の要素を元に提言を作成していきます。
- 気候変動に耐性のある脱炭素化社会を築くための経済システムと規則
- 地元の資源を利用した持続可能なコミュニティー開発
- ストックとしての土地の価値の向上
- 循環経済
さらにTF3の政策ブリーフでは以下の点を含めていきます。
- 気候変動に耐性のある脱炭素化社会のための政策
- 多面的レベルでの資源効率が高く循環型の経済
- 自然と調和した地域経済の活性化
- 東南アジアにおける再生可能エネルギーの促進
TF4(タスクフォース4):インフラ投資の経済効果とファイナンス
筆頭共同議長:吉野直行・アジア開発銀行研究所(ADBI)所長 、アマール・バタチャリア・ブルッキングス研究所シニアフェロー
インフラの開発は、長期にわたる持続可能な経済成長の前提条件です。しかし、世界中の開発途上国におけるインフラ関連プロジェクトの資金調達には、GDPの約10%が必要です。また、インフラへの持続可能な投資を重視する政策も不可欠です。TF4は、2つのテーマについて政策協議を進めていきます。
テーマ1 「チャレンジ:インフラ投資の収益率を高める方法」。質の高いインフラは大きな波及効果をもたらします。鉄道や道路沿いの中小企業や新興企業に融資が提供されれば、波及効果はさらに高まるでしょう。
テーマ2 「前進の課題:持続可能な成長のためのインフラ投資への民間参加の奨励」。インフラ投資からの収益が分配されれば、個人投資家の参加が増えるでしょう。インフラは長期投資であるため、保険や年金基金は潜在的な資金源です。ホームタウン・インベストメント・トラスト(HIT)ファンドも、新興ビジネスに資金を提供できます。
筆頭共同議長:中田亮輔・JICAチーフエコノミスト、カピル・カプール・アフリカ開発銀行(AfDB)南部アフリカ地域総局長
アフリカ諸国は依然として、財政や債務管理、農業開発、食料安全保障の問題、さらには産業の国際競争力を強化する必要性など、さまざまな開発課題に直面しています。 しかし、アフリカは農業や産業におけるバリューチェーンの発展や科学・技術の飛躍的な影響など、新しいトレンドの利点を活かすことができます。 民間セクターの役割は、多くの分野で間違いなく重要です。
TF5では、アフリカ連合のアジェンダ2063とアフリカ大陸全体の持続可能な開発の推進に向け、以下のような政策課題に取り組みます。
- 財政と債務の持続可能性
- コンパクト・ウィズ・アフリカ(CwA)
- 産業開発とICT
- 農業開発
- 食料安全保障と栄養
- 民間投資とガバナンス
TF6(タスクフォース6): 社会的一体性とグローバル・ガバナンス、政治の未来
筆頭共同議長:稲葉延雄・リコー経済社会研究所常任参与、デニス・スノウァー・キール世界経済研究所名誉会長
TF6は、グローバルなレベルでの前例のない多国間主義の危機、国内レベルでの社会的一体性の崩壊、各国がこれらの問題にどのように対処できるか、そして政治の将来はどのようになるべきかについて議論します。近年、世界の多くの地域でグローバル化に対する政治的反発がありました。「自国ファースト」の保護主義的アプローチを伴うポピュリズムが世界に広がれば、自由貿易システムの崩壊でなくとも、世界のサプライチェーンの混乱や、貿易・投資の縮小を経験するかも知れません。政治指導者はG20のような世界的フォーラムでこれらの問題に取り組む必要があります。
社会的セーフティネットが弱い国では、勝者から敗者への収入の再分配が不可欠になります。その一方、十分な社会的セーフティネットを持つ国にとって、所得再分配は社会的繁栄を改善するのに十分ではないのかも知れず、革新的な政策が必要になっています。
TF6は、社会経済的観点から、ポピュリズムについて強力な分析を行うことを目的にしています。また、G20が紛争を軽減しつつ、高水準の国際的な経済協力を可能にする最適な公式と制度運用を考えるため、グローバル・ガバナンスの意味を特定することを目指しています。これらの問題に対処するための具体的な政策措置を作成し、社会的一体性、グローバル・ガバナンスと政治の将来との関係に焦点を当てます。
TF7(タスクフォース7): デジタル時代の仕事と教育の未来
筆頭共同議長:ピーター・モルガンADBIシニア・コンサルティング・エコノミスト
人工知能(AI)、フィンテック、モノのインターネット(IoT)、「インダストリー4.0」などの大きな技術的変革が、世界経済を新たな方向に向かわせています。新しいビジネスのやり方、新しい産業、より良い新しい仕事、GDP成長率の引き上げ、生活水準の向上など計り知れない経済的機会をもたらすでしょう。同時に、個人や企業、政府は新たな課題に直面することでしょう。
ビジネスモデル、比較優位のパターン、技能の必要性、仕事の組織を変える可能性があり、さらに国の政策による引導の余地が一層制限されるかも知れません。機会の活用と、利益の共有には、政策行動が必要です。
TF7は、急速に変化する技術環境におけるスキルの需要と供給を一致させ、不平等を減らし、経済的社会的発展を促すバランスある労働市場の達成について提言します。機会の平等、生涯学習、金融リテラシーを促す教育システム開発の政策助言をすることも狙っています。
さらに、デジタル経済を効果的に利用し、繁栄と包摂性を大幅に向上させることができるよう、データセキュリティの分野について推奨を考えています。
筆頭共同議長:木村福成・慶応義塾大学教授・東アジアASEAN経済研究センター(ERIA)チーフエコノミスト・経済産業研究所(RIETI)コンサルティングフェロー
世界の貿易制度は保護主義の台頭、グローバルバリューチェーン(GVC)参加における機会の不平等やサービスおよびデジタル貿易に十分に対応しきれていない現行の法制度など、様々な面において困難に直面しています。これらの問題に取り組むにあたり、TF8では国際貿易制度を改善するために交渉の場としての世界貿易機構(WTO)を再活性化するとともに、紛争解決機能を復活・強化させるための政策を議論します。さらに財やサービスに関する通商政策、持続可能で均衡の取れた包括的な成長を達成するため、グローバル化の負の影響を軽減しつつ先進国と発展途上国双方に利益をもたらしうる社会的に公正かつ環境にも配慮した投資政策などにも注目し、デジタル貿易時代において個人情報の保護などを確保しつつ、データの自由な流れを促進するためのバランスある国際ルールをいかに構築するかについても検討します。TF8ではこれらの議論を通じて国際的な問題に対する共通の理解を深め、学術的な視点から政策提言を行うことを目指しています。
TF9(タスクフォース9): ファイナンス・テクノロジーの発展に直面する中小企業政策
筆頭共同議長:岡室博之・一橋大学教授
中小企業は、全世界で正規雇用の半分以上を占め、生産性向上を促進するために不可欠な存在です。しかし、多くの中小企業は規模や限られた資源、市場アクセスや大企業との関係に起因する課題に直面しています。
TF9では、これらの課題に対処するため、
- 起業意識の醸成、多様な起業家に対する支援、起業及び事業承継の手続きの円滑化など、スタートアップ企業の参入と退出を容易にするエコシステムの構築
- スタートアップ企業の持続的な成長、特にやる気のある中小企業による研究開発とイノベーションを促進するための大学、研究機関、企業とのネットワーク構築
- 新しい技術や革新的なビジネスモデルを生かした中小企業の金融アクセス改善
- 労働移動や人的資本投資の促進
- 中小企業が世界市場に参入する際の貿易投資に関わる障壁の削減
に向けた政策提言について議論します。
TF10(タスクフォース10):高齢化人口とその経済的影響+移民
筆頭共同議長:キム・チョルジュADBI副所長
アジア諸国が明らかに示すように、少子高齢化と寿命延長の結果としての高齢化社会の傾向は、世界の人口構造の劇的な変化を示しています。急速な人口高齢化の現象は、世界経済にとって深刻な課題となっています。総人口に占める高齢者人口の増加と労働人口の減少で、生産性は深刻な影響を受け、成長は鈍化し、社会保障制度の財政は持続可能性が低下します。 G20の政策立案者は、高齢化が世界経済に与える影響に強い関心を寄せています。
TF10は、包摂的な経済成長と、すべての人に社会保障を提供する効果的な社会経済システムを維持するため、政策措置と行動を考えようと設立されました。労働力と労働人口の減少の影響を緩和する労働力移動についても、高齢化社会を支える移民政策という文脈の中で考えていきます。